私と長太郎は、いわゆる幼馴染というやつで。昔から、共に行動することが多かった。
それ故に、幼い頃の私は、将来長太郎と結婚するものなのだと信じて疑わなかった。
私の世界には長太郎しかおらず、長太郎の世界にも私しかいないのだと。
でも、現実はそうじゃない。
・・・・・・それがわかったのは、案外最近のことだったりする。
中等部に入ってから、長太郎は急激に背が伸び始めた。
それに比例するかのように、長太郎に告白する女の子も急激に増え始めた。
私が知っている範囲でもそう思うぐらいなのだから、実際のところはもっと多いのだろう。
それでも、長太郎と一緒にいる時はそんな事実をつい忘れてしまう。
・・・・・・そう。私は今でも、将来長太郎と結婚するものなのだと信じて疑わない・・・・・・まではいかなくても。この先もずっと一緒にいれたらなぁと思っている。
「ごめん。今日はいつもより遅かった?」
「ん?どうだろ?気にしてなかった。から、大丈夫。」
私と長太郎は家が近く、毎日一緒に下校している。と言っても、学校からずっと、ではない。
途中までは、私は友達と、長太郎は部の仲間たちと、帰っている。
そして、私は友達と別れた後、長太郎が来るのを待つ。
その方が安全だと、うちと鳳家の母親が言っていて、一年の頃から習慣化している。
「でも、俺が遅くなったら、余計危ないし・・・・・・。」
「大丈夫だって。」
「それに、こんな寒い中、待たせるのも・・・・・・。」
「長太郎は心配性だなぁ〜。」
「が呑気なんだよ。」
少し困ったように笑う長太郎。私は、長太郎のこういう表情に、すごく癒される。
「そんなこと言ってたら、本当に遅くなっちゃうよ?」
「わかったよ・・・・・・。じゃあ、帰ろうか。」
「は〜い。」
長太郎と一緒にいると、本当温かい気持ちになる。
心がホッとすると言うか・・・・・・。
もちろん、体感温度が変わるわけではないけれど。
「まだまだ寒いねー。」
「ごめん、やっぱり待たせてたから・・・・・・。」
「そういう意味で言ったんじゃないの!それとも何、長太郎は寒くないの?」
「いや、そんなことはないけど。」
「でしょ?・・・・・・あ、でも。長太郎は部活でいっぱい運動してるから、寒さはマシだったりするのかな?」
「どうだろう?たしかに、部活中はあまり感じないけど・・・・・・今は、と同じぐらい寒いと思うよ?」
「男子と女子の差はあるかもしれないけどね。」
「あー、それはそうだね。女の子の方が、寒さに弱いって言うもんね?」
「でも、長太郎は背が大きい分、風にも当たりやすいし寒いかもよ?」
「それを言うなら、冷たい空気は下に行くんだから、俺より背の低いの方が寒いかもよ?」
「えー、ズルイ。」
「ズルイって言われてもなぁ・・・・・・。」
また長太郎は困ったように笑った。でも、今回はそれだけじゃなかった。
長太郎は少し考えて、おずおずと自分の手を差し出す。
「・・・・・・じゃあ、こうする?」
「え、いいの?!」
「がいいなら・・・・・・。」
「やったー!」
こんなこと、大きくなってからはしたことが無い。
気恥ずかしいけれど、嬉しさの方が勝って、私は勢い良く長太郎の手をつかんだ。
長太郎も少し照れているのか、どこか遠慮しがちに握り返してくれた。
「これなら、どっちもズルくないね!」
「そう・・・・・・なるかな。」
「うん!これなら、二人とも温かくなるか、二人とも寒いか、のどっちかだもんね。」
「まあ、そうだね。」
でも、つないでみて、やっぱり長太郎の方が温かいとわかった。
となると、長太郎は私の所為で寒くなり、私の方が「ズルイ」と言えるのかもしれない。
などと、別に結論を出す気も無いことを考えながら、長太郎の体温をじっくり感じていた。
「ん〜、あったかーい♪むしろ、熱いくらいかな?・・・・・・って、私の手が冷たすぎるのか。ごめんね。」
「そうじゃない。俺が熱いんだよ。」
「え・・・・・・もしかして、熱でもある?」
「違う。が何とも思ってないなら、言っても仕方ないけど・・・・・・そりゃ熱くもなるよ。」
長太郎は更に恥ずかしそうに目を逸らした。口調も今までとは違う。
「ちょ、ちょっと、待って・・・・・・どういう・・・・・・。」
「ごめん・・・・・・。今、あんまりこっち見ないで。」
そう言って、長太郎は完全に顔を逸らしてしまった。
それを見た私も、どんどん体が熱くなっていく。
「えっと、その・・・・・・私も何とも思ってないわけじゃないって言うか・・・・・・。」
さらには言葉も上手く出て来なくなった。
「・・・・・・?」
そんな私の様子に、長太郎は心配そうにこちらを向いてくれた。
今度は、私が「あんまりこっち見ないで」と言いたくなる。
俯きかけたけど、赤い顔をした長太郎の表情がとても真剣で・・・・・・。何とか、私も長太郎の目を見つめ返す。
「ごめん、ちゃんと言い直すから・・・・・・一回、離すよ?」
長太郎に促され、つないでいた手を離した。
そのまま立ち止まり、お互いに向き合う。
「・・・・・・これからは、幼馴染としてだけじゃなく、恋人としても傍にいてくれませんか?」
やけに丁寧に、長太郎は手を差し出してくれた。
私もさっきとは違い、妙に慎重にその手をつかんだ。
「・・・・・・こちらこそ、お願いします。」
長太郎の世界には私しかいないわけじゃないのに。それでも、長太郎は私を選んでくれた。これからも傍にいていい、と言ってくれた。
そう考えると、何だか胸の辺りがほんわかする。やっぱり、長太郎と一緒にいられることが、すごく幸せなんだ。
「長太郎。」
「ん?」
「ありがとう。」
「こちらこそ。」
そう言った長太郎の笑顔は、今までの付き合いの中で見てきた、どの瞬間よりも輝いて見えた。
鳳くん、お誕生日おめでとう!そして、ハッピーバレンタイン!
全然誕生日ネタでもバレンタインネタでもないですけどね!(←)
でも、鳳夢で初同い年設定だったので、ある意味記念ではあるかと・・・(笑)。
さて、今回のお話の元ネタは。私が見た夢です。
夢の中でのお相手は中学時代の友人で、「そりゃ熱くもなる」辺りのやり取りをしていました。
いやぁ〜、彼のことは好きになったことないんですけどねー、不思議です。二次元化したらいいキャラになるなぁ〜とは、よく思ってたんですけど(←)。
('15/02/14)